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――或る初夏の農園にて 2025/7/20

赤い炎 明鹿野レッドの一日

――或る初夏の農園にて

 朝まだき、東の空が茜に染まりきるかきらぬ頃、我は例の如く、かの畑へと足を運んだ。露に濡れた草の匂ひが鼻をつき、頬をかすめる風には、かすかに緑の苦味が混じってゐた。

 今日の務めは、ピーマンの収穫である。無論、これしきの作業は、戦隊レッドとしての務めに比すれば児戯に等しからう。されど、この小さき緑の果実を籠に集めることも、また人の世を護ることに通ずると、我は斯く信じてやまぬ。

 畝の間をすり抜けると、ピーマンたちは黙して我を待ってゐた。その艶やかな皮膚、その反射する朝日、それはまるで、戦場より帰還した武士の甲冑のごとき輝きである。

 鋏を入れるとき、我は必ずひとこと、かの緑の実に告げる。「君もまた、立派に育ったな」と。それは誰に強いられた礼ではない。ただ、共に時を過ごした者への、ささやかな敬意である。

 収穫は黙々と続く。ひとつ、またひとつ。籠はやがて重くなり、我が腕には確かな疲労が宿る。だが、それはあのヒグラシの鳴き声のやうに、心地よく、しみじみとしたものである。

 さて、収穫を終へた我は、畑の縁に腰を下ろした。仰ぎ見れば、夏雲は未だ形を定めず、空を流れてゐる。ふと、ピーマンの青き苦味が、舌に蘇る。あの味は、まるでこの世の不条理を凝縮したやうでもあり、また、何ものにも負けぬ誇りを抱いた者の魂にも似てゐた。

 かくして、明鹿野レッドの一日は過ぎてゆく。戦わずして護る道もまた、赤き炎の在るべきかたちと信じて。

 ――ああ、ピーマンよ。
 その緑の静けさのなかに、
 我は今日もまた、戦士としての心を研ぐのだ。