今日もまた、曇天の空の下、私は赤きマントを翻してアジトに赴いた。蝉の声は遠く、しかし絶え間なく耳に刺さる。まるで「焦れよ、焦れよ」と、どこかの見えざる神が私を急かしているかのようであった。
アジト――と言っても、古びた木造校舎を改装した小さな拠点である。床は軋み、窓の隙間からは夏の湿気が忍び込む。そこで私は机に向かい、ペンを握った。今日はヒーローのための「テーマ曲」を作るのだ。
ヒーローのテーマ曲。言葉にすれば軽く響くが、その実、それは我々の精神の核であり、戦場における旗印である。あのリズム、あのメロディが、戦いの最中に我が鼓動を奮い立たせ、炎を宿すのだ。
「赤い炎が 燃え上がる
この拳が 未来を変える」
私は一行目を書いて、しばし筆を止めた。なぜか、ペン先が重い。言葉が降ってこないのだ。これは、何かが足りない証左である。思えば、戦いとは剣や火花の応酬だけではない。人の心を震わせる何か――それが音楽なのだ。
そこで私は、例の彼に連絡をとった。槻木ブルー――メガネの奥に、音の世界を見通す青年。ほどなくして、ギターを背負った彼がアジトに現れた。
「コードはAmで始めましょうか」と彼は言った。
私は黙って頷き、彼の指先が奏でる旋律に耳を傾けた。その音は、まるで赤く燃ゆる炎のようであった。静かに、しかし確かに心の奥を炙るものがあった。
「これは…強い炎だな」と私が呟くと、ブルーは笑った。
「炎は、あなたの中にあるんです。僕はそれを形にするだけですよ」
その言葉に、私は己の赤き宿命を思い出した。あの日、炎に包まれた町で誓ったこと。誰も泣かせぬ世界をつくる、と。そうだ、このテーマ曲は、過去の誓いと、未来への希望と、今の戦いとを繋ぐ「赤い炎の鎖」なのだ。
やがて曲は完成に近づき、我々は最後のサビを書き上げた。
「燃えろ、赤い勇気
進め、希望の彼方へ」
このとき、外では夕立が降り始めていた。雷が一閃、空を裂いた。自然の轟きに呼応するかのように、ギターの音も力強く響いた。
ヒーローとは、戦う者ではなく、信じる者である。私はそう思う。信じる心を旋律にのせ、今日もまた明日を照らす炎となるのだ。
机の上の譜面を閉じ、私は再びマントを翻した。どこかで誰かが、この歌を聴く日が来るだろう。その日、きっとこの“赤い炎”は、また一人の心に灯るに違いない。