赤い炎 明鹿野レッドの一日 2025/7/18

スポンサーリンク

――ホームページという地獄めいた創造

 7月18日、午後2時3分。
 明鹿野(みょうがの)レッドは赤い戦隊スーツのまま、パソコンの前に座していた。頭上では天井のプロペラファンが、夏の終わりの熱気をあざ笑うように回っていた。

 「ホームページを、作らねばなるまい」

 レッドはそう呟くと、MacBookの蓋を開け、眉間に皺を寄せた。レンジャーの務めは怪人退治だけにあらず。現代のヒーローはデジタル領域にも武器を持たねばならぬという、もはや逃れられぬ風潮である。

 ホームページ――それは、見る者を惑わす蜘蛛の巣のように思われた。CSSという名の呪文、HTMLという古代文字、そしてJavaScriptなる動く妖術。これらを手なずけなければ、村の情報は永遠に深き森に埋もれることになる。

 レッドは、Googleの海をさまよい、幾度も「初心者でも簡単!」という口上に騙される。確かに“簡単”とあった。しかし、それは“貴方が神ならば”という注釈が抜けていた。

 「ふむ……背景色が赤すぎるな。いや、これは我が魂の色だ。変えるわけにはいかぬ」

 哲学と美学の間で揺れながら、レッドは配色に悩み続ける。ヒーローの顔は赤だが、ホームページが赤すぎれば目に毒である。このジレンマこそ、まさに“炎”そのもの。

 午後三時。昼食はとうに忘れられていた。敵が攻めてこない日ほど、味方の不在が堪えるものだ。助けを求めて、レッドはChatGPTという人工知能に話しかける。

 「英雄の名に恥じぬ、誇り高きホームページを作りたいのだ」

 AIは答えた。「まずは目的とターゲットを明確にしましょう」

 レッドは項垂れた。戦いに明確な目的が必要なのはわかるが、それを“ペルソナ設定”などと言い換えられると、にわかに不安になるのである。

 だが、日は暮れてゆく。空が夕焼けに染まるとき、レッドの瞳もまた紅に燃えた。

 「これが、俺のホームページだッ!」

 画面に表示されたのは、どこか不格好な赤い背景、滲むようなフォント、そして“ようこそ!明鹿野レッド公式ページへ”という力強いがやや過剰な歓迎文。

 芥川龍之介が生きていれば、こう呟いたかもしれぬ。
 ――創造とは、常に地獄の手前に咲く火の花である、と。

 こうして、赤い炎に包まれた明鹿野レッドの一日は終わった。
 だがそのページは、今もなお、ネットの片隅で静かに輝いている。
 それは、英雄の汗と、敗北と、ほんの少しの勝利を記録する――
 赤い魂の、ログブックである。